塾長不在でも、私は、塾の運営にはすっかり慣れてきていた。

今日も、何とか無事に仕事を終えそうだ。

翔太郎からは連絡はないが、今は待つしかない。

そんな時、立石先生が真剣な表情で、やってきた。

「お疲れ様、今日もありがとう」
私は何事も無かったように声をかけた。

「あ、あの新しい講師って探してませんか?」やや、震える声で私に聞いた。


「あ、4月に2号店が、開校するから、募集はかけるよ」

「そうなんですねー僕の友人が塾講師やってみたいらしくて、紹介とかどうですか?」

「あ、大丈夫よ、立石先生の紹介なら安心だし…」

私は息を飲んだ。

「面接したいから、予定聞いておいて」


「はい、わかりました。じゃあ、今日は帰ります」
深々と頭を下げて、立石先生は帰っていった。

そうか、新しい講師、そろそろ募集かけなきゃ。

条件は、大学院生から社会人、年齢制限はなし……面接は塾長と秘書の私、2人で行う……
そう決まっていた。


翔太郎に色々話さなきゃ。
今日一日の流れ、新しいバイトを雇う事、
それから、それから、
やっぱり謝りたい。

なんだか深い溝が出来てしまった……そんな感触。

溝は無くさないといけない。
いや、前の関係に戻さなきゃ。
戻りたいんだ、私は。


翔太郎、早く帰って来てね。
私、信じて待ってるからね。