午後になり、私は仕事を始めた。塾の利益もずいぶん上がっている。私はパソコンとにらめっこ。ここまで、猪突猛進で、頑張ってきたな……

そう思うと、翔太郎に言った事、そして傷つけた事を再び深く後悔した。

あーぁあー
私はうなだれていた。




「美園先生、お疲れ様です」
声をかけてきたのは、講師の立石壮真先生、私の一つ年下。
天然パーマの黒髪に、スラリとした抜群のスタイル、そしてあどけないキュートな表情がスーツ姿と見事にマッチしている。


私はハッとして我に返った。
「あ、お疲れ様、今日もよろしくね」
私は必死で笑顔を作った。

「どうしたんですか?目が腫れてます?顔色少し悪いですよ」

「え?」
私は激しく動揺し、顔を思わず両手で隠す。

「あ、ありがとう。大丈夫」
そう言って私はパソコンデスクにある座っていたイスから立ち上がろうとした。

すると、寝てないからか、フラフラとよろめき、すっと倒れかけた。

「危ない!」
咄嗟に立石先生が私を腕の中に包み込み、私を支えて、その場にゆっくり座らせた。


私は心臓がバクバク、いつもとは違う、バクバク……
なにこれ?


「あ、ごめんね、ありがとう」
は、恥ずかしい……


「ちょっと休んだ方がいいですよー」
優しくほんわか言う立石先生。


「いや、今日は塾長不在だから、休めない。頑張らなきゃ」

私が、ビシッと背筋を伸ばしたと同時に私の頭が立石先生の左肩に強く当たった。

「あ、ごめん」

そう言うと、いきなり目の前が真っ暗になった。
ん?何?

ふと気づくと立石先生が私をぎゅっと抱きしめていた。無言のまま。

私は思わず、固まった。

しかし、私は、また翔太郎の温もりと甘い爽やかな匂いを思い出した。
翔太郎…どこ?
会いたいよ……


「は、は、離して、大丈夫だから」
心臓が明らかに熱くなっている。いや、全身が発熱している。

「あ、すみません、なんだか心配で…塾長と何かありましたか?」
立石先生は、そう言いながら慌てて私から手を離した。


実は、立石先生も、井原友梨香先生も、私達の同居生活は知らない。

公私混同はしない!当たり前のこと。

だから、塾では生徒、保護者も含め、二人の関係を知る人もいないし、疑う人もいなかった。

「大丈夫、さぁ授業始まるよ」


「お疲れ様ですー」
井原先生もお茶目な笑い顔で塾に入ってきた。
井原先生は私と同じで背が低い。ちょっぴりぽっちゃりしているが、瞳は真ん丸で大きくて、眼力は半端ない。深く吸い込まれる、そんな魅力ある女性。


「お疲れ様、今日は塾長不在だから、よろしくね」
私は身なりをきちんと整えながら、そう答えた。


しっかりしろ!
自分に何度も何度も言い聞かせて。