会社設立を決めてからの翔太郎は、寝る間も惜しんで仕事に没頭していた。

あんなに可愛いがってたクルミの話も消えた。
まるで、獲物を捕まえるために全速力で走るライオンのように。


案の定、私に何かを頼むことはなかった。私は温かく翔太郎を見守った。

その代わりに、私は、塾長代理として、受験対策に追われていた。
塾として、たくさんの合格実績は必要不可欠だ。




「あれ?まだ電気ついてる、翔太郎?」
朝方4時過ぎに目が覚めた私は、1階へ降りて行った。

私はゆっくりと翔太郎がいるパソコンデスクの前まで歩いてきた。

「翔太郎…」

翔太郎は、机に頭を乗せて、顔を右に向けて、無邪気な表情で眠っていた。ただ疲労感は半端ない。


「疲れたよね……頑張ってるよ」
私は小さな声で呟いた。

そして、翔太郎の寝顔にそっと自分の頬を当てた。
心臓が壊れそうになるくらいの翔太郎の温かい爽やかな甘い匂い。

私が洗濯したり、シャンプーやトリートメント、ボディーソープを買うようになってから、翔太郎はいつも香水をつけてるかのような色気たっぷり、サラサラとした清潔感のある匂いを醸し出している。

私はそんな魅力的になった翔太郎が愛しくて愛しくてたまらない。


「…ん?あ、俺、寝ちゃった…」


「翔太郎、大丈夫?起きちゃった?なんか飲む?」


「あ、ああ、んじゃ、あったかいカフェラテ」
切れ長の美しい瞳を擦りながら、まるでクルミのように愛らしく私を見上げる。


「うん、わかった…ちょっと待っててね」
私は2階へとスリッパの音をパタパタさせて上がった。