そこは、一面真っ白な雲のような、壮大な墓地公園だった。
足跡すら、ひとつも無い。荘厳な景色。
「美園、気をつけろ」
私達は、階段をゆっくりゆっくり登って行った。
なかなか足が思うように進まない。
翔太郎が、私の手をしっかりと握り、前へ向かって行く。
ただ、黙ってついて行く私。
やがて、たくさんの雪に埋れた1つの墓石の前で、翔太郎が止まった。
「ここだよ」
翔太郎はそう言うと、墓石の雪を大きく払い除けた。
【樋口】この2文字が、雪の中から、浮き彫りにされて輝き出した。
私も、すぐさま一緒に雪を払い除けた。
翔太郎はどうやら、家から持ってきたらしい線香を鞄から取り出し、火をつけた。
そして、手を合わせた。
「父さん、母さん、やっと真実がわかったよ。事故だったんだね。自殺じゃなくて良かった……母さん、素敵な手紙ありがとう。この人が、俺が心から愛する人です」
翔太郎は、私を墓石の真ん前に突き出した。
私は手を合わせた。
「お父様、お母様、田辺美園です。お手紙拝読しました。ありがとうございます。とても嬉しかったです」
「父さん、母さん、正直、今まで辛かった。でも、美園のおかげで、すべてが上手くいった。真実を知れたのも、美園のおかげだ」
真剣に、語りかける翔太郎は、長年の苦しみからの解放と安堵感が交錯して見られた。
「父さん、母さん、俺は、美園と世界一幸せで温かい家庭を作るよ。父さんと母さんには負けないくらい幸せな家庭」
寒さを吹き飛ばす翔太郎の強く逞しい言葉。
私の心も体も、真っ白な雪を跳ね返すくらい、熱く燃えだしていた。
翔太郎、安心したよ。
良かった。
これで、本当に前向いて生きていけるね。
過去に縛られずに……



