私は高まる鼓動を必死で押さえつけた。

そして、勇気を出して、そっと封筒を開けた。

あの手紙と同じ封筒、便箋………





『初めまして。

今、この手紙を読んでくれているあなたは翔太郎が心から愛する人なんですね。

翔太郎は、父親に似て頑固で、一度手に入れたものは二度と離さない子です。
だから、翔太郎の父親が全力で私を守り愛してくれるように、翔太郎もあなたを全力で守り愛し続けるでしょう。
どうかあの子の気持ちに応えてあげて下さい。

会社が倒産してしまい、翔太郎には、きっと辛い思いをさせたことでしょう。
会社の倒産で、主人の病気は悪化しました。パニック障害と鬱病でした。
主人は、自分は病院に通わず、社員の北山さんの奥様の胃癌の治療費を代わりに支払っていました。

主人は、社員は家族と同じだと言って、最善を尽くしていました。
しかし、遂には、倒産という正反対の結末を迎えてしまいました。

主人は、「死にたい、死にたい…」と何度も呟くようになりました。
私は、一緒に死んであげたいと強く思うようになりました。

でも、私はハッとしました。「生きなきゃ。翔太郎がいる…」
そう思い、明日、主人を精神科へ連れて行くことに決めました。


主人も私も今は元気で暮らしていますか?

あなたに会えるのをとても楽しみにしています。

穂乃香ちゃんに、手紙を預けたのは、サプライズが好きな翔太郎に、愛を込めてです。

驚かせてごめんね。

最後まで、手紙読んでくれてありがとう。

翔太郎の未来の奥様へ
9月29日 樋口千津子 』