私はすっかり酔いしれ、立石先生に全身委ねていた。
ここにいれたら、私は楽なのに。
ここなら、私は不安も孤独もないのに。
でも、違うんだ。
立石先生は優しいし、頭も良くて完璧な人。
でもね、一つだけ、ないものがあるの。
翔太郎にはあるけど、立石先生にはないもの。
それはね、
《アグレッシブな野心》
私が翔太郎の一番好きなところなの。
大好きなところなの。
だから、やっぱり、立石先生にはもう甘えちゃいけないよね。
「立石先生、ありがとう」
私は、手袋とマフラーを返した。
「私、翔太郎が帰って来るの待つ、待つよ」
寂しそうな表情、悲しそうな表情、見たことない表情。
「じゃあ、気をつけて」
私は、あえて見送るのをやめて、扉を閉めた。
やがて、エンジンの音が聞こえ、車は走り出した。
「ごめんね、ありがとう、立石先生」



