エントランスには、クリスマスランチの案内が赤と緑のモールで、綺麗に飾られていた。

そして、入り口の扉には大きなクリスマスリースとサンタクロース。
中に入ると大きな白いクリスマスツリーが飾られていた。


白だ。
真田先生のお母様が好きな白だ。
塾のツリーに見慣れていた私には、とても斬新だった。


「いらっしゃいませ。2名様ですか?」


「はい、禁煙で」
穂乃香さんが、嬉しそうに答えてくれた。


「こちらへどうぞ……本日は、クリスマスランチがオススメです」


「美園ちゃん、何にする?私は、クリスマスランチのAの煮込みハンバーグにするわ」

この即決ぶりは、穂乃香さんのクールさを強く感じさせる。

「あー私はじゃあランチBのオムライスで」


「すみません、ランチAとBで、お願い致します」
大きな声で叫ぶ。
何とも豪快なオーダーの仕方。
穂乃香さん、すっかり元気になったようだ。




「懐かしいなーこの店」
穂乃香さんが、店内をあちらこちら見渡しながら言った。

「そうなんですか?素敵なお店ですよね」

私好みの可愛いアンティーク調なお店。
周りはカップルだらけ。


「翔ちゃん、ここの煮込みハンバーグが大好きでね…よく一緒に来たんだー」


「……また?また、翔太郎?」





「お待たせ致しました。AランチとBランチです」
そっとテーブルに置かれた。


「美味しいわよ。食べましょう」
穂乃香さんは、大きな口を開け、ハンバーグをすぐさま食べた。

「うん、美味しい。翔ちゃんと付き合ってた頃と味変わらない」


私は全身鳥肌が立った。


「つ、つ、付き合ってた?」



「あれ?知らなかった?私達、高校生の時、3ヶ月位だけだけど、付き合ってたの。」


知らない。
聞いてない。
高校生って………
キスとかしてる?
それ以上も?



「……」


「美園ちゃん、どうした?」


「あ、はい、知りませんでした」


「あーそうだったのね。余計なこと言ってしまった。気にしないでね。高校生の時だし」



気にしないわけないじゃない?
もうやだー
最悪。
知りたくなかった。
聞きたくなかった。



「あー美味しいです」
私は何事もなかったように、平然とオムライスを口にした。


ただ、その後の記憶はほとんどない。