「わぁーここいいね。」

ちょっと坂を上がって行くと、景色が一望できた。
冷たい空気が冬らしさを彷彿させる。

私は、ふと、翔太郎の産まれた街並みを思い出す。
そこには、今、【Second Homes】が建設されたんだ。


「ねぇ、翔太郎……」


「私、わかった事がある。真田先生のこと……」


「なんだ?言ってみろ」
真剣な眼差しで私を見つめた。

「真田先生のお母さんの治療費、翔太郎のお父さんが払ってたみたい……」


「うぅぅぅ」
ひどくうなだれ、頭を押さえつける翔太郎。


「真田先生は、真田先生は、翔太郎に恩返ししたくて、塾に来たんだよ…」
私はその場から動けない。


「そんな……親父が犠牲になったんだぞ…」


その場に倒れ込み、頭を地面にドンドンぶつけ、狂ったように、泣き叫ぶ翔太郎。


「うぅーあぁぁーふざけんな……」
私は初めて見た。
翔太郎が本当に隠していた心の弱さ。


翔太郎は、拳で地面を何度も何度も叩き付けている。

翔太郎、辛いよね。
泣いて良いんだよ。
泣かせてあげたいよ。

でも、まだわからないことあるじゃない?
両親はなぜ亡くなったのか?
翔太郎、あと少しできっとわかるよ。



私は、翔太郎の元へ駆け寄り、背後から、ギュッと抱き締めた。

「翔太郎、泣いて、いっぱい泣いていいんだよ。あと少しで、真相わかるよ」

私は翔太郎をいつも翔太郎が私にしてくれるように、温かく優しく包み込んだ。


「美園……く、悔しい……俺は何もあの時知らなかった…気づいてあげれなかった……」

翔太郎は全身震えている。

「だからだ、だから、急に倒産したんだ……多額の金が流れたんだ………親父は、自分よりも、社員を大事にしてた…」


「翔太郎……私はそばにいるから…ずっとあなたを支えるから」

私も翔太郎に負けないくらい、顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。


「美園……」


「翔太郎、あと少しだよ」


「美園……ありがとう」

私達は、お互い落ち着きを取り戻すまで、抱き合ったままだった。
そして、決してその場を離れることは無かった。






ポンポンポーン

ん?
サッカーボール?


「すみません、ボール取って下さいー」


私達は、ハッとして、飛んできたサッカーボールと少年達をじっと見つめた。


私は即座に立ち上がった。
「あ、はぁーぃ、蹴るね」

私が蹴ったボールは、見事に少年達から、外れて溝に落ちていった。


「あーごめんね」
甲高い声で叫ぶ私。

「何やってんだ、下手くそ」
翔太郎は、目を真っ赤に腫らして立ち上がった。


「えへへー」


「はい、翔太郎、ハンカチ」


「いいのか?美園、お前、お岩さんみたいだぞ」


「な、なによ、ひどーい……ハンカチはいつも2枚持ってるから、ほらね」

私はもう1枚のハンカチを取り出して、飛びっきりの笑顔を見せた。



「あ、もうこんな時間だ。美園どうする?一緒に行くか?塾戻るか?」

ちょっぴり穏やかな表情に変わった翔太郎。


「あー、最寄り駅まで送ってー」


「わかった」


私達は、手をしっかりと繋いだまま坂を下り、車へ戻った。