「そういえばユリウス。今日はどこへ?」

「君の馴染みの店へ」


ユリウスの答えに、メアリの脳裏に浮かんだのはエマの働く店だ。

もしかして普通を望んだから、メアリの日常を彩っていた店に連れて行ってくれるのかと、その心配りに胸が温かくなる。

何よりエマに会えるかもしれないのがとても嬉しく、メアリは心を踊らせ酒場の扉を開いた。

ここはさすがにメアリの顔を知る者が多く騒ぎになっては大変なので、ユリウスは店主に事情を説明し店の奥の個室スペースを使わせてもらうことになった。

店主はメアリの顔を見て背中を優しく叩く。


「大変だったな」


言葉遣いも態度も以前と変わらないことが嬉しくて、メアリは熱くなる目頭を笑顔で誤魔化した。


「ありがとう、おじさま」


涙ぐむメアリに店主はただ微笑んで頷き、座ってくれと言うとカウンターの奥に戻っていった。

そのすぐ後。


「メアリ!」


今日は二階の自宅にいたエマが個室に入るなりメアリを見て喜び、ポニーテールを揺らし抱きしめた。


「エマ!」


メアリも力一杯抱きしめ返し再会を喜ぶ。