──夕暮れ、西の空に丸みを帯びた月が浮かぶ頃。

メアリはユリウスに連れられ城を出た。

それも何の確認もされず、あっけなく。

もちろんいつものメアリのままでは顔見知りの兵も多くバレてしまうので侍女の服を纏い軽く変装はしているのだが。

ユリウスからの説明では、入城する者さえきちんとチェックしていれば、出るのはチェック済みの者になるのであまり細かく確認しないらしい。

なので、問題は帰ってくる時になるのだが、基本的に城で働く者の衣服を着ていればそれだけで問題なしと判断されるようで、顔をじっくり見たりはしないとユリウスは城を出る前に話していた。

近衛騎士のユリウスが侍女を連れて歩いている。

そう判断されて終わりだろうと。

もしバレてもうまく誤魔化すから心配しなくていいと言われ、メアリはお礼を告げると久しぶりに感じる城下町の景色を見回した。

もうじき夜の帳が下りるが、町にはまだ多くの人々が行き交っている。

店じまいの準備をするパン屋の隣では、夕食にありつこうと客がカウンター席を埋め尽くすバールが賑わいを見せており、聴こえくる笑い声にメアリの頬が緩まった。


(よかった。みんな元気そう)


王が崩御し、突然現れた王女に戸惑って不安の声を聞くこともあるだろうと思っていたメアリだったが、今のところそんな雰囲気もメアリの心を刺すような棘のある言葉も届いてこない。

もちろんこれから聞く可能性もあるので、心づもりはしながらユリウスの後ろをついて歩く。