「見えるものだけを信じてはいけないよ。でないと、あっという間に悪い男に攫われてしまう」


初めて見る彼の妖艶な笑みに、メアリの胸は否応なしに高鳴った。


「で、でも、私にはユリウスがいます」


だから、攫われたりなんてしないと告げると、ユリウスは一瞬面食らったように目を見張り、それから笑いを漏らす。


「それは熱烈な告白だな」

「こっ!? ち、違います! そういう意味ではなくて!」

「はいはい。でも、このチャンスを逃したらしばらくはお忍びで出かけることも難しい。行くなら今だと思うけど」


幼子を宥めるように制止されたメアリだったが、ユリウスの言葉に確かにと納得した。

戴冠式が終われば公務にも積極的に関わることになる。

そうなれば抜け出そうだなんて企む余裕も暇も無くなるかもしれない。

そう考えたら、確かに今しかないのだ。

その結論に至った時、メアリから迷いは消え、ユリウスにしっかりと頷いてみせたのだった。