王女であれば当然だとわかっていても、メアリの心は突然の変化についていけずにいる。

偽りのない気持ちを打ち明けたメアリに、ユリウスは逡巡して「わかりました」と了承した。


「場をわきまえつつ、でよければ」


メアリは顔を綻ばせ、大きく頷く。


「はい! お願いします! ありがとうユリウス様」

「様はいらないよ、メアリ」

「あっ……えっと、ユリウスさ……ユリウス」


約束したばかりでうっかり様をつけそうになったメアリをユリウスは小さく肩を揺らして笑った。


「良くできました」


褒めるユリウスは以前と変わらぬ振る舞い。

交わされる穏やかなやり取りを嬉しく思いながら、メアリは礼拝堂へと足を踏み入れた。

ユリウスは外で待機していて、メアリはひとり、ゆっくりと靴音を響かせ祭壇の前に横たわる白い棺へと近づく。

礼拝堂を柔らかく照らすのは、死者を弔うろうそくの灯。

物音は自らの足音のみで、呼吸音すら響きそうな静けさの中、メアリは棺に眠る父を見下ろしそっと手を合わせ組んだ。