「つまり、内通者がいる可能性が高いのではないか?」


高圧的な口ぶりは一体誰のものなのかと開いた扉の隙間からそっと部屋の中を覗き見ると、円卓を囲む重臣らの姿があった。

広い室内にはイアンとオースティン、さらには近衛騎士団の各隊長まで揃っており、これが重要な会議中だということを瞬時に悟る。

勝手に見聞きしてはならないと、音を立てぬようにゆっくりと身を引こうとしたメアリだったが、再び耳に届いた会話にその動きを止めた。


「退却ルートを指定したのはオースティン騎士団長、貴殿だな?」

「ええ、如何にも」

「貴殿がヴラフォス帝国と内通し、あえて指定したのではないのか?」


メアリは思わず「そんなはずない」と口にしそうになり、回廊に声を響かせそうにになるのを寸でのところで呑み込んだ。

疑いをかけられたオースティンは小さいため息を落とす。

バカバカしく抗議する気も失せたオースティンの代わりに、イアンが口を開いた。


「ランベルト大侯爵。オースティン騎士団長が内通者だという確証はどこにもない。軽率な言動は慎んでいたただきたい」


イアンが告げた名前を耳にし、メアリは得心する。

王位を狙うランベルト大侯爵ならば、イアンらに突っかかるのも納得だ。

王の崩御を機に、邪魔な者を排除する腹積もりなのだろう。