「……君はやはりメイナードの子だな」

「え?」

「昔、メイナードも言っていた」


オースティンが語るのは、マリアとの結婚が決まった頃のこと。

ランベルト大侯爵が自分の娘をどうにか王位に就けようと躍起になり、それにうんざりしていたメイナードは言った。


『俺は難しいことは苦手だ。だから、守りたいものの為にアクアルーナの王になろう。お前たちやマリア、生まれてくる子に、両親、そして、この国に生きる民。大切な者の笑顔の為に』


「父様……」


自分の想いと父の想いが同じだったことを素直に喜び、メアリは微笑む。

オースティンもまた笑みを浮かべると一歩下がった。


「では、俺はそろそろ失礼しよう。引き続き、団員の手当をよろしく頼む」

「はい。しっかりお世話させていただきます。あ、ジョシュア先生を呼びましょうか?」


二階で食事をとっているはずのジョシュアにも挨拶をしたいかと思ったのだが、オースティンは「いや、いい」と広く逞しい背を見せる。

そして、「あいつの顔は見飽きてる」と肩をすくめると、大きな手で扉を開けて仕事へと戻って行った。