「……騎士団長様」

「なんだ?」

「私は、笑っていてほしいです」


今までに出会い、言葉を交わし、親交を深めてきた者たち皆の笑顔だった。


「自分の立場とか、難しいことはわからないです。急に王位継承者であると言われても、やっぱりまだ実感も湧かないし。でも、王様がいなくなって、みんなから笑顔が消えました」


親しい者たちはもちろんのこと、すれ違う町の人々も皆、これからどうなるのかと不安そうに口にしていた。

ロウの街がヴラフォスに占領され、王亡きアクアルーナはこのまま滅ぼされてしまうのではないかと。

いつもは活気に溢れていた城を、城下町を、暗い影が覆っている。

きっと他の町も似たような状況なのだろうと考えると、メアリの心は重く沈んだ。

けれど、それではいけないような気がして、メアリは大きく息を吸い込む。


「子供っぽい理由かもしれないけれど、私は皆の笑顔を守りたい。それが、今の私が望むものであれば、私にできることはなんでしょう?」


メアリの問いかけには、すでにひとつの答えが出ていた。

きっとメアリもすぐそれに気付くだろうとオースティンは太い眉を優しく下げる。


「それは、俺が安易に答えていいことではない。ただ、もしも選ぶ道が俺の道と重なるならば、全力で君と君が守りたいものを守ろう。メイナードの友人として、メイナードの大切な娘を」

「ありがとうございます。騎士団長様」


決めつけずにまだ迷う余地をあえてくれたオースティンに、メアリが小さく頭を下げる。