イアンはちらりとメアリの様子を目の端で捉えてからジョシュアに話しかける。


「とりあえず、今後のことは葬儀が済み次第本格的に話し合うことになった。何かあれば全て会議の上で決める手筈だ」

「よくランベルト大侯爵が頷いたね」


イアンの紅茶を用意するために立ち上がったジョシュアが驚き半分の笑みを浮かべた。

ランベルト大侯爵とはメイナード国王の叔父にあたる男性だ。

子に男児はおらず、ふたりの娘がいるのみ。

次女はすでに隣国フォレスタットの領主の元に嫁いでいるが、四十になる長女はいまだ嫁いでおらず、それはもしもの際の王位継承の駒としてランベルト大侯爵があえて嫁がせていないともっぱらの噂だ。

王の崩御は野心を持つランベルト大侯爵としては、この機を逃したくないはず。

故にジョシュアは「ならば代理で私か娘が王の座につこう」とランベルト大侯爵が話を強引に推し進めずにいたことが不思議だったのだ。

イアンは繊細な模様があしらわれたティーカップを手にするジョシュアに肩をすくめてみせる。


「娘の方はここのところどこぞの伯爵だけでは物足りず、庭師だの司祭だのと金に物を言わせて派手に遊び惚けているようだからな。仮とて誰も頷かないだろう」

「確かにね。じゃあランベルト大侯爵は?」

「話し合いの前に、今動きすぎるとあらぬ疑いをかけられるのではとアドバイスしておいた」


ランベルト大侯爵があわよくばと王座を狙っている件は、アクアルーナの重臣たちには周知の事実だ。