「ユリウス!!」


痛みに大きく眉をひそめたユリウスは、姿勢を保てなくり落馬した。

メアリが駆け寄り抱き起こすと、ぬるりとした血の感触に鼻の奥がツンと痛む。


「大丈夫、大丈夫だから」


ユリウスを励ます言葉は、自分を落ち着かせるようでもあった。

父、メイナードの最後の姿が脳裏に浮かぶ。

また大切な人を失うかもしれない恐怖がメアリを襲い、呼吸が浅くなる中、矢が刺さっている部分を確認した。

鎧のお陰で深くまで刺さってはなさそうだが、今ここで矢を抜けば更に出血する恐れがある為、適切な処置ができる場所で治療しなければならない。


(私じゃ応急処置まで。早くお医者様に診てもらわないと)


イザークを始め、他にも傷を負ったものもいる。

メアリは一刻も早くモデストを止めねばと顔を上げた。

セオが最後の弓兵を沈黙させ、打つ手がなくなったモデストは尚も兵を動かそうと自分の周りに立つ者たちに「ユリウス皇子にとどめを刺すのだ!」と命令する。

そうはさせるかと、オースティンが横陣で壁を作り守りを固めた時、ついに皇帝が動いた。


「やめよ、モデスト。そこまでだ。皆も武器をおさめよ」


威厳のある低い声が響くと、近衛騎士達と対峙していたヴラフォス兵は武器を下ろす。

ユリウスは父が発した制止の声に、ゆっくりと頭を上げた。