もうあと数十歩で森の中に入るという時、背後から多くの足音が聞こえ、その正体が何であるのかを半ば予想し振り返る二人の目に映ったのは、ヴラフォスの兵を従え馬にまたがったモデスト。


「やはり裏切りますか。ユリウス皇子」


嫌味たっぷりに笑うモデストに、ユリウスは目つきを鋭く尖らせる。


「モデスト、これ以上お前の好き勝手にさせるわけにはいかない。ヴラフォスはお前のものではない」

「ええ、もちろん。ヴラフォスはあなたの父君のもの」

「いいや、国に住まう民のものだ。そして皇帝は支え導く者。俺はそれをアクアルーナから教わった」


鞘からすらりと剣を抜くと、背に隠したメアリに横目で確認する。


「メアリ、俺が時間を稼ぐから森に入るんだ」

「でも!」


残ったユリウスはどうなるのか。

うまく森に身を潜められても、自分ひとりだけ逃れられるのでは意味がない。

メアリにとって、ユリウスは大切な存在なのだ。


「大丈夫。俺はもう二度と、君を騙したりしない」

「そんなことは心配してないわ。心配なのはあなたの──」


命なのだと、伝えきる前にモデストが弓兵に構えの体制に入るよう右手を挙げた。


「行け!」


ユリウスの厳しい声が立ち止まったままのメアリを強く促す。