治安の安定していない地区。

野盗による事件。

心当たりのあるメアリは、王の言葉を無言で受け止めて微笑んだ。

むしろ不自然に硬くなったメアリの様子に王は気づき、そっと薬の入った紙袋をテーブルに置く。


「その沈黙、まさかとは思うが」

「と、と、とっても美味しいですね、この紅茶!」

「今朝、騎士団長から報告のあったスラムの野盗に追われていた人物とはメアリか?」


言い当てられ、メアリの心臓が飛び出るのではないかと思うほどに跳ねた。

王は普段は優しいが、メアリが危険を冒したとなれば厳しく叱ることもある。

ジョシュアの場合、嘆いて取り乱し注意されるという流れなのだが……。


「お、王様、今日はお忙しいでしょうし、私はそろそろお暇しますね」

「メアリと紅茶を楽しむ時間くらいはあるさ。息抜きがてら、もう少し話を聞かせてくれるか? 迷子のメアリ」


王の場合、顔は笑っていても目が怒っており淡々と叱る。

元々注意を受けたりすることは少ないが、メアリは昔からそれが苦手だ。

まして相手は尊敬する王。

話しはありがたく聞くべきだと理解していても、できれば避けたいものだった。

しかし、逃げても仕方なく、そもそもむやみに歩き続けて迷った自分が悪いのだとメアリは肩を落とす。


「よ、喜んで……お付き合いさせて、ください……」

「ありがとう」


かくして、アクアルーナ王のありがたいお説教タイムが始まったのだった。