それは、今から三十年以上前の話だ。

フォレスタット、ティンバーの北東に【ボワ】という小さな村があった。

しかし、その村は突如戦火に巻き込まれ、全てが焼けた。

家や人、たった一人生き残った少年の心も壊し、悲痛に嘆く声さえも奪って。

煙が立ち込める中、それでも少年は歩み、必死に生きた。

草を食べ、泥水をすすり、ようやく辿り着いた街では盗みを働いた。

食べ物、着る物を奪うことが上手くなり、人を騙すことも上手くなってきたある日、調子に乗ったその少年は貴族の物に手を出して捕まりひどい拷問を受けた。

顔に、手に、足に、腹に、背に。

身体中に痛みが走るごとに、少年の心には闇が広がる。

どうして自分はこんなに惨めなのだ。

何がそうさせた。

どこから狂った。

思い浮かぶのは失ってしまった優しい家族と、穏やかな村の景色。

自分から大切なものを奪ったのは誰だ。

村を焼いた炎よりも紅い旗はどこのものだったのか。

やがて気を失った少年は、路地裏に捨てられた。

けれど生きていた。

ひとりの少女が救ってくれたからだ。