鍵のかけられた黒く冷たい鉄格子を掴んで、メアリはソプラノの声を張り上げた。


「出してください!」


暖炉のない牢屋には白い息が舞い、メアリの身体を容赦なく冷やしていく。

錆びついた鉄格子の向こうに立つのは、モデストだ。


「そう言われて出すくらいなら最初から入れませんよ。まずは満月の夜まで、どうぞここでごゆっくりお過ごしください」


丁寧にこうべを垂れたモデストの嫌味を込めた態度に、メアリは唇を噛む。


「……なぜ今になって私を閉じ込めるんですか」


皇帝が宮殿に到着してもすぐに牢屋には入れず、薬草園で会っても出歩くことを咎めもしなかった。

なのになぜ、深夜、急に兵を伴いメアリの部屋を訪れ、無理矢理牢に入れるのか。

寒さに身を震わせたメアリは、ナイトガウンの合わせを引っ張る。

閉じ込められている空間に明かりはなく、鉄格子の向こう、壁に灯されたランプだけが頼りとなり、その光をうっすらと纏ったモデストは微笑んだ。


「陛下に苦しみ続けていただく為です」

「な……」

「陛下が頼るのは私だけでよいのですよ。メアリ王女は余計なことはせず、大人しくしていてください」

「あなたが、陛下を弱らせたのですか」


ユリウスが疑っていた通り、王妃らを裏切るようにことを動かし、怒りを煽らせ、皇帝を孤独へと追いやったのではないか。

メアリの問いにモデストは笑みを携えたまま答えない。

けれど、ふと、口が開いて。


「……ひとつ、昔話をしましょうか」


突然、モデストが語り始める。