メアリを渡さなければルシアンの命は保証しないと人質にとられる可能性は高い。

だから、メアリを逃がす前にルシアンはクレイグたちと共に安全な場所へ。

だが、ルシアンは凛とした声で答える。


「どこにも行かないよ」

「なぜですか!」


思わず立ち上がったユリウスに、ルシアンは微笑んだ。


「大丈夫。僕にも考えがある。それに、出て行くのは僕らじゃない。そうだろう?」


コソコソと隠れる必要はないと話すルシアンの表情は落ち着いている。


「兄上? 一体何を?」

「ユリウス。お前は、時が来るまで……いや、その時も、メアリ王女を守ってやってほしい」


今言えるのはそれだけだと伝えると、ルシアンは読みかけの本を開いた。

話は終わりだと言わんばかりに。

何をするつもりなのか。

すでに何かが始まっているのか。

今のユリウスには見当もつかなかったが、疑うことはなく。


「わかりました」


ひとつ確かに頷くと、兄の部屋を後にした。

与えられた役目を胸に。