この唇に触れたことがあるのは自分だけなのだろうかと、身勝手な独占欲が顔を覗かせる。


(……ズルくて、無防備に眠る君が悪い)


心の中で言い訳をしたユリウスは、想いをそっと重ねるように眠るメアリに唇に自分の唇を合わせた。

起きてそのまま受け入れて欲しい気持ちと、気づかずにいて欲しい気持ちがせめぎ合う。

我慢が効かずに身勝手に唇を奪う己の自制心のなさに呆れつつもゆっくりと唇を解放すると、メアリの穏やかな寝顔を見つめ自然と笑みが漏れた。

絹のように美しい髪をひとふさ手にとったユリウスは、メアリを守りたいと強烈に思う。

けれど、ヴラフォスにいては父やモデストが近すぎてメアリを守るには限界があった。
ならばどうするべきか。


「……答えは、ひとつか」


上手くいってもふたり共にはいられないかもしれない。

それでも、こうして幽閉され続けるよりはずっといい。

ユリウスは起こさないようにメアリから離れると寝台から降りた。

今夜のことは自分だけの胸にしまっておこうと、密かに誓いながら。