「なるほど、度胸はなかなか」


皇帝が鼻で笑うと、「ユリウス」とようやく息子に話しかける。


「はい」

「奇襲が失敗したと報告を受けているが、それは王女が持つ巫女の力によるものだということで相違はないか」

「はい、陛下。奇襲により伏兵に囲まれることも予知しており、被害を最小限に抑えていました」

「ふむ。では、予知能力はそこそこ確かなもののようですな陛下」


モデストが興味深げにメアリを見つめると、皇帝はけだるげに頷いた。


「アクアルーナの王女よ。余の役に立つならその身の安全は保証しよう」


つまり、裏を返せば拒否するなら命はないという意味だと悟り、メアリは唾を飲み込む。

けれど、首を縦には振らなかった。

無理難題を押し付けられては、アクアルーナを窮地に立たせてしまうかもしれないからだ。

自身の保全より優先すべきもの。

恐怖で身体が震えようとも、守らなければならないものが、今のメアリにはある。


「それが、皇帝陛下やヴラフォス帝国、そして、アクアルーナを守り、フォレスタット王国をも傷つけないのでしたらご協力します」

「国はひとつで良い。王もひとりだ。さすれば海を越えた国々とも渡り合える」

「協力しても渡り合えます」

「そして、いずれ裏切るのだろう」


そんなことはしない。

伝えるべく一歩踏み出そうとしたメアリだったが、モデストが割って入った。


「ひとまず、次の満月の晩を待ちましょう。そこでどのような未来を視たか聞かせてもらうのです」


その時、役立ちそうか見極めればいいと続けたモデストに、皇帝は「好きにせよ」と立ち上がる。

そして、あとは任せるとだけ言って兵を伴い退室した。

ユリウスに対して、何の労いもなく。