宮殿内が緊張に包まれ、使用人たちの表情も硬い。

部屋で待機するように言われていたメアリの元に迎えにきたユリウスも、まるで面を貼り付けたかのごとく強張っていた。


「陛下が呼んでる」

「はい……」


メアリは落ち着きのない鼓動を鎮めるため、深呼吸をし、ユリウスと共にまだ痛む足を少し引きずるようにして謁見の間に向かう。

普段より兵士の多い廊下が息苦しく感じるのは、狭さのせいではなく、皇帝がここにいるのだと痛感するからだ。

やがて、白い壁に金の装飾が豪華な部屋に通されたメアリは広い部屋の奥、赤いソファーに腰掛けた人物と、その横に立つ男を確認すると緊張を高めた。

目に見えない圧力に、メアリは息を飲む。

椅子に座っているのはヴラフォス皇帝。

年は五十くらいか。

背には真紅のマントを纏い、感情を持たない冷めた瞳がメアリを見つめている。

その瞳がちらりとユリウスに向けられたが、口は開くことはなく。

ユリウスもまた、そっと頭を下げたのみ。

モデストは、以前メアリがアクアルーナの城で見かけた時と同じような丈の長いコートを羽織り、首元のスカーフに手を添え、ねっとりとした声で「メアリ王女、どうぞ陛下の御前へ」と促した。