予定通り、今日の夕刻前には皇帝陛下がイスベルに到着する。

足首の痛みを和らげる薬を手にしたユリウスからその報告を受けたのは、昨夜の就寝前だ。

おかげですっかり寝不足となったメアリは、緊張と不安で朝食も全く喉を通らなかった。

ユリウスとルシアン。

どちらと婚姻関係を結ぶかという結論も出ないまま。

昼になる前にそのことを告げにルシアンの部屋へ訪れたのだが……。


『実は、ユリウスから婚姻の話は進めるなって言われてね』


肩をすくめてそんなことを口にした。

ユリウスは、自分が婚約者となればメアリと共謀してヴラフォスを裏切る可能性を無駄に作ってしまうと話したらしい。

では、と、ルシアンが自分の婚約者として進めようと言うと、それもダメだと口にした。

理由としては、結局アクアルーナ公認でないからだという。


『公認でなくても牽制はできると思うんだけど、まあ……許せないんだろうなぁ』


仕方ないと笑ったルシアンだったが、メアリは何が仕方ないのかわからないまま、とにかく、メアリがひどい扱いを受けないように、モデストの好きにさせないように、都度手を回すことを約束してくれた。

そして、日が落ちる前に──その時はやってきた。

宮殿に、ヴラフォス皇帝と宰相モデストが到着したのだ。