「だ、大丈夫! 歩けます!」

「悪化したら大変だろう。それに、婚約してると思われてるならこうする方が自然だ」


ユリウスは気にしていないのか、大浴場の時のような動揺は見られない。

自分だけが意識しているのをなぜか少し寂しく感じ、メアリは俯いた。


「……そう考えると、私とルシアン皇子の婚姻するのはややこしい感じになるのね」


ユリウスと婚約しているのではないのかと騒がれるのは良くなさそうだなと、なんとなく想像する。


「まぁ、そこはクレイグの盛大な勘違いで済むだろうけど……兄上を選ぶつもりだった?」

「い、いえ、例えばの話で」


まさかそう突っ込まれるとは思わずメアリがたじろぐと、ふいに鼻がむずがゆさを覚える。

ずぶ濡れになったせいでやはり冷えてしまったのかと自覚し、手で口を覆った直後。


「くしゅん!」

「っくしょん!」



ほぼ同時、メアリとユリウスはくしゃみをした。

肩で口元を押さえるようにしていたユリウスと、メアリの視線が合い、どちらともなく笑みを零した。


「気が合いますね」

「気が合うな」


またしても同じタイミングで同じことを言った二人は、声を出して笑う。