未来を見通す力。

メアリの持つ能力は、まさにそれを助けるものだ。

故に、皇帝とモデスト・テスタはメアリを欲しがり攫うようユリウスに命令したのだから。


(でも、私の力も万能じゃない)


望むまま自在に操れるものではない。


(……昔の巫女に、操れる人はいたのかしら)


そんな疑問が頭を掠めた時、部屋の扉を軽く叩く音がしてメアリは「どうぞ」と景色から視線を外す。

来訪者はユリウスだ。


「部屋の使い心地はどう?」


メアリの宿泊する部屋の様子を確認しながら訊ねられ、メアリは「問題もなく過ごせてます」と返す。


「何か必要なものがあれば侍女に伝えるといい」


微笑みもなく淡々と話すユリウスだったが、メアリの目元にくまがあるのを見つけた。

寝不足になるのも当然な状況であることをユリウスは十分理解している。

今、メアリが窓際に立っているのも、庭の景色で心を慰めていたのかもしれないと予想した。


「……庭くらいなら出てもいい」

「え?」

「考え事をするには、部屋ばかりじゃ気が滅入るだろう?」


ユリウスは、メアリが逃げ出すことはないと確信している。

洞窟内で自らの正体を明かしてから今この瞬間まで、メアリはそんな素振りを微塵見せたこともない。

ひたすらに、ユリウスの願いを叶えているのだ。