「今のは、起こしちゃダメだと思って堪えようとしたら出てしまって」

「そんな言い訳しなくても」

「違います! 普段はもっと普通ですから!」


立ち上がったメアリが「もう」と零すのを見て、可愛らしいなとユリウスは優しく目を細めた。

けれど、そんな自分にハッと我に返る。


(昨夜、突き放すべきだと決めたばかりだろう)


視線を落とすと視界にはメアリが掛けてくれたキルトのブランケット。

これは、昨日部屋に戻ったユリウスがテーブルにもたれ掛かり眠るメアリを見つけ、ベッドに寝かせて被せたものだ。

メアリが膝にかけた時、ユリウスの意識は覚醒した。

ダークブラウンの瞳が自分を見つめている気配を感じ、ユリウスはあえて起きるのをやめた。

その理由は漠然としたもの。

ユリウスは"何か"が起きることを期待したのだ。

メアリがユリウスに変化をもたらす何かを。

それは、以前後悔に苛まれて求めた自らの死ではなく、けれど大きくユリウスの運命を変えるようなもの。

しかし、その"何か"の正体を知るのはひどく恐ろしく、ユリウスはメアリに気づかれないよう長い息を吐き出した。

それから視線を持ち上げ窓へと移すと、黄金色を差す空が夜明けを告げていて、ユリウスはメアリの温もりがまだ残るブランケットを引き剥がし、出発の支度をするべく立ち上がった。