朝陽が雲に隠れているせいで少し暗い廊下の窓を降り始めた雨粒が遠慮がちに叩く。

高い天井を見上げるように欠伸をするウィルは、メアリの滞在している部屋の前で警護をしている同僚に挨拶をした。


「お疲れ。王女は?」

「まだ出てきてないよ。疲れてるんだろうな、きっと」


アクアルーナを出て、奇襲にあい、フォンタナに着いてから修道院を訪ねた。

確かにウィルも疲れが抜けてはいないが、メアリが朝には強いタイプなのを知っている。

軍議の時間も迫っている為、もう目覚めているだろうと予想しウィルは扉をノックした。

しかし、中から返事はなく、耳を澄ませてみても物音ひとつしない。

もしかして本当に寝坊しているのかと、扉越しに「メアリ王女、軍議の時間がきます」と声をかける。

だがやはり何の反応も返ってこない為、仕方なくウィルは扉を押し開けた。


「失礼し──」


言葉が続かなかったのは、ざっと見回した室内にメアリの姿がなかったからだ。

冷えた朝の空気が部屋を満たし、ウィルは窓が開け放たれたままだということに気づく。

その寒さに、窓が随分と前から開いていただろうことは確かで、ウィルは顔つきを厳しいものに変えた。

急ぎ窓から庭の様子を窺うも、メアリの姿は見当たらずウィルは舌打ちすると身を翻す。


「どうかしたのかい?」


同僚の騎士が訊ねると、ウィルは廊下を走り出した。


「メアリが消えた」


争った形跡はないものの、幼馴染が何者かに連れさらわれた予感を胸に答えて──。