「ユリウス、怪我してる」


メアリの視線が自分の手首に向いていることを知り、ユリウスは先程から少し痛みを感じていた手首を見た。


「ああ、さっきのオーガだ。大したことない。それより、これを食べて」

「食べる前に手当しますね」


そう言って、ユリウスから受け取った食べ物を膝の上に置き、腰のベルトから下がる鞄から薬を取り出す。

ダフォディルというラッパ状の花の球根をすり潰し、小麦粉などと混ぜて練ったものだ。

それを紙に厚く伸ばし患部に当てるのだが、ユリウスは腕を出さずに視線を逸らした。


「敵に手当は必要ないだろう」


するとメアリは「何を言ってるんですか」とユリウスの隣りに移動しその手を掴む。


「私はジョシュア先生の側で病気や怪我で苦しむ人たちを見てきました。苦しんでいる人がいれば助ける。生まれや身分なんて関係ないんです。だから、ユリウスが敵だとしても手当します」


語りながら、ユリウスの手首に薬を巻き付けるメアリ。

その間、ユリウスは嫌がるでもなく、メアリの横顔を静かに見つめていた。