メアリにとって、ユリウスはどちらの存在であるか。

その答えを得たメアリは、ユリウスの剣を鞘に戻す。


「殺しません」


きっぱりと拒否してみせたメアリに、ユリウスは一瞬、瞳に驚きを浮かべたがすぐに微笑んだ。


「残念だな」


死んで償わせてもくれないのか。

そんな風に聞こえたメアリは悲しみを胸に眉を寄せる。


「それはこっちのセリフです」


騙されたと知り、逃げることも叶わず、仇を討つこともできず。

ただ、ユリウスの思惑通り、交わした約束を果たす為に進むしかないのだ。

不服そうに自分を睨むメアリに、ユリウスは確かにそうだと苦笑する。

そして、再びメアリの手を引いて洞窟へと入っていった直後。


「君は本当に優しくて、卑怯な俺を苦しめるから……嫌いだよ」


困ったように、悲しそうに零したユリウスの声は滝の音に流されて、不安に小さく溜め息を吐いたメアリには届くことはなかった。