そして、メアリにあてがわれた部屋に入ると、イアンは再び口を開く。


「実は此度のヴラフォスの奇襲は想定内でした。こちらが斥候を放てるように、ヴラフォスも探らせているでしょうし、フォンタナへは街道を行く以外に道はない。狙ってくる可能性はあると」


だから、イアンはその際すぐに動けるようにとセリニで山賊を取り締まっている傭兵団の者たちにいつでも参戦してもらえるよう手を回しておいたのだと説明した。


「ただ、これを軍議で伝えてしまえば内通者に手の内を明かしてこちらが不利になる。なので、少々危険な賭けにはなりましたが、予定通りに進むよう指示を出したんです」

「そのおかげで被害は大きくならなかったんですね」


イアンの手腕にメアリは「さすがアクアルーナの宰相様ですね」と舌を巻く。

父メイナードも、イアンをとても頼りにしていたことは想像に容易い。


「とにかく、メアリ王女は騎士隊長の中に内通者がいる可能性を捨てず、慎重に行動を。いいですね?」

「はい……」


本来なら騎士たちを疑いたくはない。

けれど、国を背負う者として、純粋に信じているだけではダメだということを、メアリもわかっている。

だからこそ、イアンの忠告を素直に受け入れ頷いたのだ。

明日は朝から軍議の予定がある。

その為に今日はゆっくり休むように言い残しイアンは部屋を出て行った。