「イアン殿のおかげでこちらの被害は少ないが、それでも予定通りに動けていない。とにかく今は一度フォンタナに入り団長たちと合流しよう」

「でも……その間にユリウスに何かあったらと思うと……」


憂い顔で伏せ目がちにメアリが声を零すと、ルーカスが小さく笑い肩を揺らした。


「まるで恋人を心配する健気な乙女だな」

「なっ、ち、違います! 私はただ心配で!」


頬を赤らめるメアリに、ルーカスはからかうように目を細める。


「ムキになって怪しいな」

「ルーカス!」

「わかったわかった。まあ、あいつは強いから簡単にはやられないだろう。が、さすがに放置はしない。探させておくから、今はフォンタナへ。いいですね、王女?」


あえて敬語で確認したルーカスから否定は無駄だと言わんばかりの圧力を感じ、メアリは仕方なく頷いた。

そうして、しばらくの後。出発の準備が整うと、馬の腹を蹴る直前、山を見つめたメアリはユリウスが無事であることを祈り行軍を再開した。