感謝してもしきれない気持ちでメアリは笑みを浮かべた。


「今度、お礼をさせてくださいね」

「いらないよ。さっきも話したけど、あれは捕えるべき者たちだ。だから、どちらかといえばお礼は俺の方がさせてもらわないとな」

「いえ、私は逃げていただけですし。捕まえたのはユリウス様とセオ様ですよ」


互いにお礼は自分がと言い合いながら歩いていると、目的地である騎士宿舎が見えてくる。

レンガ造りの整然とした建物。

重厚感溢れる木製の扉には、アクアルーナ王国の紋章が装飾されており、その前に落ち着きなく立つ男が、宿舎へと歩みを進めるメアリとユリウスの姿に気付いた。


「メェアァリィィーーーーッ!!」


後ろにひとつにまとめ緩く編んだ金色の髪を揺らし、両手を広げメアリ目掛けて走り寄ると力いっぱい抱き締める。


「無事か!? 怪我は!?」


メアリの頬や腕をペタペタと触り確認する様を、ユリウスは眉を下げて苦笑した。


「スラム街に迷い込んで野盗に追われていましたが、メアリには怪我もな」

「野盗に!? 何もされていないなっ!?」


ユリウスの言葉を最後まで聞かずに、ジョシュアは悲痛な面持ちでガクガクとメアリの肩を掴み揺さぶる。


「ユリウス様たちに助けていただいたので大丈夫です! だから、ちょっ、ジョシュア先生! 落ち着いて!」


医者が慌てる姿を患者に見られたら、いざという時に不安がられるのではと、メアリはハラハラしながらジョシュアを宥めた。

しかしながら、ジョシュアはメアリのこととなると極度な心配性になる。

彼の溺愛ぶりは、ユリウスを始め、騎士団の者たちなら皆よく知っていることだった。