一連の流れを見守っていたオースティンは声を出して笑った。


「いや、まあこれも遺伝だな。メイナードも若い頃はよく城を抜け出してたんだ。俺たちを連れてな」

「オースティン。その話は後だ。火急の知らせが入った」


イアンに軽く咎められ、オースティンは表情を真面目なものに変える。


「なにがあった?」

「後ほど軍議で詳しく話すが、ヴラフォスがフォンタナに向けて進軍の準備を始めている」


緊迫感を持った声で静かに放たれたそれは、メアリの呼吸を一瞬奪う。

ヴラフォスがまた動き出したのだ。

王を手にかけロウの町が侵略されてから、いつかこうなるだろうという懸念は誰の頭にもあった。

イアンもヴラフォスに使者を送り、これ以上の争いを避けるべく交渉を行っている。

けれど、軍事力に長けるヴラフォスはさらなる領土の拡大を望んでいる為、両国間の交渉は何の進展もないままだった。

また、大切な誰かが傷つくかもしれない。

王のように志半ばに命を落とすのかもしれない。

想像し、メアリは重たい息を吐き出すと、イアンとオースティン、両者に挟まれ会議室へと急いだ。