「ご無事で?」
耳元の甘やかな声はユリウスのもの。
問いかけにメアリが小さく頷くと、ユリウスは目の前の男に余裕の笑みを見せる。
「彼女に手を出すつもりなら、このユリウスが相手になろうか」
「ユリウス……? は、白銀の!?」
有名な通り名に酔いが覚めたのか、男は顔を真っ青にし謝りながら脱兎のごとく逃げ出した。
途中、転んで膝をつく男の後ろ姿を見送りながら、ユリウスは短い溜息を吐き出す。
「君は男に追われるのが好きだな」
「好きじゃありません!」
それと誰かが聞いたら誤解しかねない言いかたはやめてくださいと頼むと、ユリウスは剣を腰に収めクスッと笑った。
「でも、すぐに身を守ろうと剣を抜いたのは素晴らしいな。これも団長の指導の賜物。そして、君の努力の成果だ」
「あ、ありがとうございます」
メアリの肩を労うように叩いて、隣に並ぶユリウス。
微笑みはいつもの彼のもので、先程覗いた際に感じた冷たさなど今は微塵も見えない。
「エマさんとの食事は済んだのかい?」
「はい。それで、ユリウスを探していたらさっきの人とぶつかって、追われてしまいました」
「なるほど」
少し怖い思いをしたが、ユリウスの密談現場を見たことは誤魔化せそうでメアリは内心ホッとする。
だが、ユリウスはメアリの瞳をじっと見つめた。
何かを探るようにも感じる視線を向けられ、メアリはたじろぐ。
もしかして、見ていたのがバレているのでは、と。