夜道を照らすのは月の頼りない光と、部屋から漏れる明かりのみ。

気持ちが急く中、あまり足音を立てずに時々背後を気にしていた時、メアリの耳に届いた話し声。


「そうか。では、彼女で間違いはないのか」

「はい。すぐに動きますか?」

「……いや、確実にいきたい。まずは仕込みを」

「御意」


普段聞いている柔らかさはなく、冷たいものだけれど、メアリは自分が探していた者の声だとわかった。

ただ、雰囲気が異様で思わず唾を飲み身を潜めてしまう。

相手は部下なのか、内容は仕事に関することなのか。

彼女とは、誰のことなのか。

何もわからないけれど、今、この会話を聞いてしまってはいけなかったのではと後悔をする。

ここから去った方がいい。

判断し、メアリが踵を返した直後。


「ふへへ、見つけたぞー」


いつから背後に迫っていたのか。

先ほどの酔っ払いがすぐ目の前でニヤリと笑い手を伸ばしてくる。


「さ、触らないで!」


急いで護身用に持っていた短剣をマントの下の腰帯から抜くと同時、背中から伸びてきた腕がメアリを守るように抱き寄せた。

続けざま、酔った男の眼前に、ロングソードの切っ先が向けられる。