──それからのエマと過ごす時間は本当に楽しいものだった。

決して長い時間ではなかったけれど、色んな話をして溜めていたものを吐き出し、時々ふたりで涙も流した。

でも、それ以上に笑い合って疲れも吹き飛ぶくらいの気持ちでメアリはエマに見送られながら店を出る。

また、チャンスがあればお忍びで会いにくると約束をして。

月夜の冷えた空気を肺に吸い込み、メアリは辺りを目を走らせた。


(ユリウスはどこかな)


迎えにくると言っていたけれど、エマの用事のタイミングもありメアリの方が早く済んでしまった。

ここで待って変に目立ってはいけないと懸念し、とりあえず近くにユリウスがいないか見てみようと一歩踏み出す。

まだそんなに遅い時間ではないせいか、酒場や宿屋が並ぶこの辺りは人通りがそこそこあり、気をつけてはいたものの、うっかり千鳥足の男性とぶつかってしまった。


「ごめんなさい!」


急いで謝罪すると、男性は酔いのまわった眼差しでメアリを見つめる。

どことなく焦点が合っていない瞳から視線を逸らしたメアリは、絡まれる前にともう一度謝ってからすぐ近く脇道へと入った。

この先は人気があまりないけれど、よく知っている道だし迷うことはない。

もしも追ってこられても家と家の間に隠れられる場所があるので、メアリはとにかくそこに向かって足早に暗い路地を進んだ。