「倉橋さん…」

「大丈夫?来るべきじゃないと思ったんだけどね、気になったから」

立ち話じゃなんだから、と私は近くのカフェに入った。

目の前のコーヒーの湯気が登っていくのを黙って見ていた。

少し沈黙があった後、倉橋さんが話しかけてきた。

「落ち着いた?まだ落ち着かないよね…あんな事になると思っていなくて、傷つけてごめんなさいね。でも、あなたには前を向いてほしいの。私が向けたように、あなたにも。時間がかかると思うけど…」

「はい、大丈夫、とまだ言えませんけど、ゆっくり向き合っていきます。笑って話が出来るようになりたいから」

「そう。それが聞けてよかったわ。じゃ、元気でね、無理しないで」

そう言うと、倉橋さんは席を立った。

「倉橋さん、ごめんなさい。私…」

店を出ようとする倉橋さんを呼び止めた。

「浜口さん…あなたにこんな事言うべきじゃないんだろうけど。私はあなと笑って話が出来るようになりたいと思ってる。その時が来たら、話しましょう?だから、謝らないで。あなたは悪くないんだから」

そう言うと倉橋さんは、店を出て行った。

私はその言葉を聞いて、胸のつかえが少し取れた気がしていた。