受験を盾に逃げたのに、ちゃんと断ったのに、陣之内くんは傷ついた顔もせずにくしゃくしゃにしてご機嫌に笑っている。


「やっぱ俺、蕾の視界から消えたくないし、頑張る」
「前後の会話がかみ合っていません」

「へへ。聞いてねえから。都合の悪い言葉は、お空に飛んでけって」

 卑怯者の陣之内くんは、そういうとジュースになったかき氷を飲み干した。

 すっかり彼のペースで、気づけば駄菓子屋は私たち以外、小学生たちの姿は消えてしまっていた。どこからか聞こえる蝉の声と、ほのかに彼から香るプール掃除の名残の塩素の匂いだけが私を包みこんでいる。


 クラスの人気者が、私なんかを好きだという。
 メガネザルって笑わないで、可愛いという。

「陣之内くんは、すごいです」
「そお?」

 絶対私のことなんて紗矢のおまけとか、根暗とか、存在感薄いって思われてるって思っていた。

 でも私が下を向いていただけで、うちのクラスって仲がいいのは、彼のおかげかもしれない。
 ひまわりみたいに、太陽みたいな明るくて誰もが好きな花。

 彼の周りがいつも笑顔で溢れているのは、人の悪口を言ったりしない彼のおかげなんだ。

「てか、陣之内くんは、やめようよ。問題です。俺の下の名前は?」
「ゆ、優大くん」
「正解です。正解者は、今度から下の名前で呼んでもらいます」