優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


目を開けると苺シロップより真っ赤な陣之内くんの顔が、目の前にあった。

「……え?」
「キスって眼鏡、邪魔じゃね?」
「ええ?」

「やっべ。上手くできねえ。恥ずかしい。やば、死ぬわ」
「えええええ」

キスされた?
今、キスされたの?

「は、初めてだった……」


「ん。俺と話すのも緊張するぐらいだからな、初めてだろうな」

「初めてッて、もっと、大切にしたかった。不意打ちとか、酷い。心の準備とか、嘘」

へなへなと腰が抜けた私を、陣之内くんが覗き込む。
なんだか、頭がパニックで、また涙が滲んできた。


「俺じゃ、嫌だった?」
泣きそうな、縋る様な顔で言わないで。
そんな顔で言うなんてズルい。


「嫌です! 大切にしたかったです。……でもこの先、誰かとするかと言われたら、ないかもしれない。人気者の陣之内くんとできて、ラッキーと、棚からぼた餅だったと思うことに」

「いやだ」

言いかけた言葉を遮られ、覗き込んだ顔が近くなる。

「一回でラッキー、終わりは、嫌だ。俺は蕾ともっとキスしてみたい」
「なっ」
「でも俺、キス下手だからなあ。眼鏡外してする?」
「ちが、そ、しない! しません!」

「俺じゃ、蕾の彼氏はだめ? 嫌?」

 覗き込んでくる顔が、捨てられた大型犬みたいで、庇護欲をそそるというか。
 というか。

「ずるいです!」
「ええー、なんで?」
「卑怯者です!」