優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


デジカメとキャンパスを取り出し、下書きの準備をしながら窓を見る。
美術室からはプールが見えないのが難点だった。
写真と想像だけで描くには、水面は少し難しい。


「落ち込んでたのに、描くってなったら部長元気になりましたね」
「え!? 落ち込んでるよ!」
「描く間は忘れられるから、部活が終わっても来てるんじゃないですか」

百合ちゃんは鋭い子だ。賢くて聡い。

彼女は美術部唯一の二年生だけど誰か友達を誘うこともせず黙々と描いている。
『学校の中って誰かしら常にいるんだから、部活ぐらい自由にしたくないですか』
と一人の時間が欲しいらしい。私が本当に引退したら、彼女の願いが叶うのに。


 それでも私が来るのを少しも嫌がらない。とても良い子でもある。
 冷房がようやく効き出したので、窓を閉めようと手をかける。

すると外で何か大きな声がしていた。水飛沫の音と共に歓声も聞こえてくる。


「やめなよーっ」
大声で止めているのは、紗矢の声だった。
「……なんですか?」
「分からない。でもプールの方からだ」

水飛沫と共に歓声と、次に怒声、そして女子の囃し立てる声もした。
これは、プールに入って遊んでいるのかな。

「様子を見て、喧嘩なら先生に言った方がよくないですか?」
「え。見に行くの?」
「行ってみましょうよ」

なぜか少しわくわくしている様子の百合ちゃんと共に、美術室を飛び出してプールの方へ向かう。