優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


 私も驚いてプリントを奪おうとしたけど、ひらりと交わされて、立った彼は壁にプリントを押し付けると判子を押した。

「無理だよ。俺の親父、今、俺のこと全く無視だもんよ。あいつ引っ越し日も俺に言わねえし」

「もう少し、その……陣之内くんも冷静に話してみたらどうなの? 喧嘩腰じゃなくて」
「俺もオヤジも考えが変わらない以上、俺からは折れるつもりはねえ」

 これだけは譲らねえよ、と鼻息荒く言った後、プリントを四つに折ってカバンに仕舞った。

「それより、蕾は携帯持ってねえんだよあ。パソコンのアドレスもねえの?」
「ないです」
「寂しい夜は家に電話してもいい?」
「だめ! 駄目です。駄目っ」
「けち」

 家に陣之内くんから電話なんて、考えただけで心臓がバクバクしてしまう。

「でも、どうしてももうちょっと蕾と一緒に居たいんだよなあ。俺も美術部入ろうかな。絵の勉強したいし」

「あのう、私、倉庫の方に居ますので」

 百合ちゃんが耳まで真っ赤にして、手でパタパタと顔を仰ぎながら倉庫に逃げていく。

 陣之内くんが美術部に入るのは駄目だ。百合ちゃんが倉庫から出てこなくなる。
「あの、三年生はもう部活に入れません」