優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


「だって、恋愛初心者の蕾がOKするわけないもん。受験生ですって断った?」

 流石小学生の時からずっと一緒の紗矢だ。

 私が頷くと、紗矢はそっかーっとビート版の、かじられたよう歯型のような部分を爪でひっかく。ビート版の噛み痕って小学生の時から不思議だったんだけど、噛みつくほどしがみついて泳ぐ人は見たことない。

「遠距離は無理だしね。それに高校に行ったら優大より格好いい人っていっぱいいるかもじゃん。優大って格好いいしいいやつだし身長も高いし面白いけど、馬鹿じゃん」

 その言葉は、私にではなく自分に言い聞かせているように思えた。

 男子たちが楽しそうに、騎馬戦みたいな遊びをしていた。
 帽子を次々取っていく陣之内くんは、楽しそうだ。
 楽しい時間は、けれどもうすぐに終わってしまう。

 同じ時間なのに、皆は進み始めていて、そして彼は取り残されていく。
 ああ、なんと現実は先生たちみたいに甘くないんだろう。

 叫んでもわめいても、子どものように地団駄踏んでも、きっともう誰も結末が覆さないと思っているんだ。

 急に、今笑っている陣之内くんが、とてもつらそうに見えたのはきっと勘違いではない。

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