急いで靴を履き替えて、紗矢の隣に並ぶ。
「テスト後、かなあ。最終日、三時間とかじゃん。だからそのあと、教室で」
「……そ、うなんだ」
皆はもう気持ちを切り替えている。
陣之内くんとさよならを決意して、お別れパーティまで計画して。
四面楚歌。
ああ――。本当に彼は一人なんだと気づく。
私だって最初は、転校するって決まってるのにって意地の悪いことを思っていた。
でも今は違う。今は違うのに――。
「一人100円出したら、四千円近くのホールケーキ買えるじゃん。問題はどこに置くか。テスト終わって誰かが取りに行くかって感じかな」
紗矢の言葉が頭の中に上手く入ってこなかった。
多分紗矢たちの方が考え方が大人で、間違っていない。
前を向いて歩いている。
でも私は、彼の考えを否定したくない。昨日見た彼の気持ちを否定したくない。
感情と現実と理想。
何一つ、うまくかみ合わない歯車。
彼をこの夏に閉じ込めてしまっているようだった。



