優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。



先生が、陣之内くんを怒る理由ができて、どこか嬉しそうに見えた。いや、気のせいかもしれないけど。

実名で彼の小説で殺されてしまうほど、嫌われている織田先生は、なおも校舎の二階から怒鳴っている。

「うるせえな、あいつ。これ貸してあげる。これ見てたことにしなよ」

紗矢がカバンから電子辞書を取り出すと、陣之内くんは嬉しそうに受け取った。

「サンキュ。この進路の紙のせいで呼び出しなんだよなー。せんせー、俺の手の中には希望しかありませーん」

電子辞書を手に持ったまま、ぶんぶん両手を振って先生の元へ走っていく陣之内くん。
それを紗矢が爆笑しながら見ている。


「あいつ、完全に織田に目を付けられてるよね。まあ引っ越すから内申点今更気にしないか」

「え、でも陣之内くん、引っ越さないって」

彼の頑固たる決意の前では、引っ越しは白紙になる予定のようだ。
でも紗矢は靴箱で靴を履き替えながら、くすくす笑っていた顔をふっと陰らせる。


「市外からの受験って、枠が決まってるんだよ。優大は頭がそんなよくないから引っ越して受験しないと受からないよ」

「でも、陣之内くんは転校したくないって」
 私が言い終わらないうちに、紗矢は乱暴に靴箱の扉を閉めた。