真っ直ぐな黒髪が、頭の上で結ばれて、冬の風に乗って揺れる。
ジャージは大きめで、でも、袖はまくられていた。
友達と話している綺麗な彼女の笑顔が印象的だった。
まくられた袖からは色白の腕がつづく。
長いまつげに、ほのかに色付いた唇。

胸が騒いでいる。
心臓が耳の裏についているみたい。

たぶん、今僕は、耳まで真っ赤だと思う。
そして、きっと涙目だ。
やっと見つけた、とでも言わんばかりに彼女に惹かれた。

きっと、これが...いや、確実に
僕の初恋だった。

これが恋というものだと初めて認識する。
何となく、他の子よりはなんてものはあったけどこんな感情になったのは初めてだ。
これが僕の初めての「すき」という感情なんだ。

これを、皆は一目惚れと言うのだろう。

好きな人が出来ると、世界は彩る。なんて言うのは案外本当だったらしい。

しばらく、ぼーっと彼女を見ていた。
故意に見ていた、というよりは、体が動かなかった。と表現すべきだろう。

彼女だけが特別に見えた。

きらきらと光っていた。そんなことを言うとバカにされるかな。
でも、本当なんだよ。

5分ほどして、体育の号令がかかり彼女が走って、生徒の輪に入って行くのを見て、やっと現実に引き戻された。

そして、抱いた感情は「後悔」だった。
どうしてしまったんだろう、と顔を手で覆いしゃがみ込む。

自分への不甲斐なさと後悔と愚かさが入り交じって頭がごちゃごちゃした。

朝、せっかくセットした髪もお構い無しに、ぐしゃぐしゃに掻き回す。

最悪。

と思った。
不覚だった。
一目惚れ、と言ってしまえばロマンチック、運命的なんて思うのかもしれない。

けれど、相手は高校生。ましてや、僕はいわゆる保健室の先生というやつで。

しかも、今年の春、この高校に入ってきたばかりの新任教師だった。

だから、やっと夢が叶って、浮かれてて、それに合わせて忙しくて、生徒との接点もなかなか持てないでいたのだ。

だから今日、「初めて」彼女を見つけた。

ありえない話だ...。
マンガや、アニメじゃあるまいし。


でも、それでも、手で覆って瞑ったはずの瞼には、今でもハッキリ彼女の、あの、人懐っこそうな笑顔が映ってる。

たぶん、もう手遅れなのだろう。

頭で今も、君のことを考えている時点で。

目を離すことが出来なかったあの時、いや、、、

君を見つけたあの瞬間。
僕はもう、後戻り出来なくなっていた。


今、はっきりと分かる。
だって、もう今、後悔とかそんな事より、君の笑顔が見たくてたまらない。

僕はこの歳で初めて本物の恋に堕ちた。