秋晴れの日だった。
金木犀のほのかに甘い香りが、
風に乗ってやってくる。


倫太郎は、こんな素晴らしい季節の風を、
今朝見たあの少女と共に感じたいと思った。

秋風になびく彼女の髪を想像してみた。
少女がこちらを向いて笑顔で微笑む。

そんな妄想をしてみる。

少女はどんな言葉を自分に投げかけるのだろうか。
少しの時間、考えてみる。

「あのね。私……秋晴れの内臓………って見てみたいと思うの」

とか、言ったりするのかもしれない。
悲しいため息が出た。

「えっ?」

彼はふと気が付いた。
どうして今、自分のただの想像に、
ただの悲しいだけの妄想に

『秋晴れの内臓』

という単語が出現してきたのだろうか。

この単語は、どこかで見たことがあるから、
それが自分の潜在意識にあって、

空想の中の少女に語らせたのであろうか。

そのことが気になって、彼は急いで部屋に戻った。


ドアを開けて、家の匂いに少しだけ落ち着く。
ひょっとするとさっきまで読んでいた本の中に、
例の単語があるのかもしれない。

と思って、机の前に座って、本を手に取る。しおりをとる。

見つけた。
この文章だ。

『その素晴らしき宗教観。つまり秋晴れの内臓』

これだ。安心した。
自分の脳みそが、おかしくなっていない証拠だ。

けれども、なぜこの一文が頭の中の、
しかも潜在意識の中にあったのだろうか。


その疑問に対する答えは出なかった。
それからあまり深くは考えようとはしなかった。