長くて、苦しい。

そのうち部屋のドアのところに
一人の少女が立っているのを発見した。


少女は倫太郎と同じくらいの年頃で、
同じ高校の制服を着ていた。

セミロングの柔らかな黒髪をしていて、
華奢な体つきをしている。

その少女に気を取られていると、
いつの間にか黒い影はいなくなっていた。


部屋の中の四隅を見渡しても、居なかった。

彼はこの瞬間すら眼球を動かすことはできなかったけれど、景色を見渡すことはできた。


不思議ではあるが、
金縛りというのはそういう現象なのである。

少女はサッと倫太郎の隣まで来ると、
正座の姿勢でそこに座った。


顔はよく見えない。
でもその佇まいは綺麗だった。その瞳は美しかった。


「あなたは、誰ですか?」


倫太郎は心の中で強くそう念じてみた。
恐らくこの状況では、

心の中で強く念じる行為というのが、
言葉にするのと同じ意味になっている。


少女は彼の顔を覗き込んだ。
ふわりとした優しい黒髪が倫太郎の頬を撫でる。


けれど純粋で無垢な瞳はそのまま。
あどけない声で、真剣な声で、


「うーん。あのね。
私ね……梺真理(ふもとまり)。

私……今ね。
アナタが見ている私は、

本物の私じゃなくてね、本物の私はね、
いると思うけど、金縛りが解けたら、

解けて明日学校に行ったら、
仲良し学級にいる私に声をかけてみて。

たくさんお話をしよう?
そうしたら、きっと、


アナタの人生に、


大きな進展があるから」



彼女は再び続けた。
同じ内容を、同じ声の調子で続けるのだ。必死に。


「明日ね。私ね、仲良し学級で待ってるから。約束だよ……約束」


 その声色は、倫太郎の胸の鼓動をより強くさせた。